測量・登記手続 大川原哲也土地家屋調査士事務所

境界が大地震によって動いてしまった場合

 

 近年にみる大地震による被害状況から推察すると、地震による地殻変動によって地表の水平移動が生じ、その地域の境界は物理的に移動が生じているだろうと考えられます。実際、兵庫県南部地震の際に建設省国土地理院が阪神間の一・二等三角点について緊急測量を実施した結果、三角点の水平移動が数センチメートルから数十センチメートル生じていることが判明しています。
 ここで問題となるのは、大地震により広範囲に渡って境界が移動してしまった場合、元の位置に戻すべきなのか、自然現象としての移動なのだから、移動後の境界をこれまでの境界とみなすべきなのか、といった考え方や取り扱い方に疑問が発生します。この問題に関しては、境界を公的に表示する地積測量図を管理する立場にある神戸地方法務局長から、法務省民事局長あてに照会がされています。
 その照会結果によると、地震により広範囲に渡って地表面が水平移動した場合には、土地の境界も相対的に移動したものとして取り扱うものとし、一方で、局部的な移動(崖崩れ等)の場合には境界の移動はないものとして取り扱う。といった主旨の照会結果が示さました。(照会・平7.3.20不133・神戸地方法務局長より法務省民事局長あて)(回答・平7.3.29法務省民3・2589・法務省民事局長から神戸地方法務局長あて)
 こういった経緯を踏まえた上で、我々土地家屋調査士の境界測量における実務的な例をあげると、震災前の土地の測量図面と震災後の測量結果に公的許容誤差を上回る誤差があった場合には、震災後の境界が正しいものして扱うことになります。しかし、ここで注意すべきことがあります。震災後の土地の売買などに際して、現況の正しい測量結果を公示するために、地積更正などの登記申請をする場合には、申請人(土地所有者)の費用において、隣接所有者との合意や、その土地が街区を形成している場合には、街区全体の測量を要し、さらに、街区地権者全員の合意をとりまとめる必要があるという点です。つまり、自己所有する宅地一区画の境界を公示したいだけでも、街区全体の境界を公示する必要があるということです。
 もしこういった問題を抱えてしまった場合には、法務局を始めとする関係公的機関(公道を管理する地方公共団体など)や、実務的に法務局の土地図面の作成作業を担う我々土地家屋調査士に、相談することをお勧め致します。
 尚、前記事「地理空間情報と境界」にて、記載させてもらいましたが、今後は世界標準化された、座標データが土地行政の物理的管理基準になることが予測されますので、大規模な土地開発(インフラ整備など)などを実施・計画されている場合などには、関係する利害関係人と前もって大規模地震によって境界の変動があった場合の取り決めをしておくことが急務であると考えます。

 

 


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